布のダイヤモンド Himalayan Textile が出来るまでと今後の展望
ORIENTAL GATE というブランドのアイコンというべき存在が、ヤクとシルクの布、Himalayan Textile です。その布が出来た経緯と今後の展望を書いてみたいと思います。
ヒマラヤ一帯で古くから作られてきた伝統的毛織物をパシュミナと言います。ヒマラヤの高地 4000m付近に生息するヤクや山羊の産毛を採取し、手紡ぎ手織りで織り上げたものです。
その織物は、山の民がお嫁に行く時に携えるものであったり、貴重な現金収入を得る手立てであったりしながら、世界が産業革命を経て現代に至る流れの外でゆっくりと育まれ受け継がれてきました。しかし、その歴史に一度幕が降りたことがありました。それは、1990年代のパシュミナブームによるものでした。
希少な極細の原毛、手紡ぎという伝統を全く無視したネーミングによって、薄手のウールからカシミヤまで、機械織の綺麗な色のストールにパシュミナという名をつけ、世界中に売られました。
そのブームが去り、自称パシュミナの品質のバラつきがもたらしたものは、信用の失墜でした。百貨店ではその名称が禁止になりました。それだけでなく、肝心の本物のパシュミナの生産は途絶えてしまいました。
その状況を危惧して一人のネパール人が立ち上がりました。現地の原毛を買い、自分の家に織り機を設置し、紡ぎ手と織り手を雇い、自力でパシュミナを復興させたのです。さてその後、どこに売るのか。元国連職員で商売をしたことのない彼は途方に暮れていました。一方私は、ネパールに在住していた当時から本物のパシュミナの素材を探していました。帰国を前にして諦めかけていた時、私はベシュさんを紹介されたのです。
私がORIENTAL GATE を作り今に至る経緯の中でも、奇跡だと思える瞬間が多くありましたが、彼との出会いはその中でも最たるものだと思います。そうして、日本での販売を想定し商品のプロデュースを進めました。帰国後、ネパールの商材の中で一番自信を持って勝負できると考えていたヒマラヤの本物のパシュミナは、百貨店で出店できるようになるうえで、大きな力となってくれました。
最初はストールから始めましたが、2018年にシルクとヤクを二本どりで織り込んだ布が出来上がりました。それが今回のタイトルにある Himalayan Textile です。動物の産毛は、鳥でいう羽毛。空気をたっぷり含むダウンが軽くて暖かいのと同じく、本当に重さを感じないくらい軽く、しかも暖かい布が出来上がりました。2019年にコートが完成し、2020年のORIENTAL GATE とコロナ禍スタートに、ぎりぎり間に合いました。開発が少しでも遅れていたら、今はなかったでしょう。
このコートのお陰で、近年のコロナ禍の中人出がかなり少ない状況の中でも必ず目を留めてくださるお客様に出会うことが出来ました。そして今年も、各地のポップアップでお客様に販売することが出来ました。
この素材には、見る人が見ると一瞬にして惹きつけられる魅了があります。それは、自然のままの原毛にしか出せない色の濃淡と艶です。ヒマラヤのヤクの毛を布として織り、縫製しているところは世界でも弊社しかないという希少性も大きな強みです。それゆえに、布のダイヤモンドと言っても過言ではないのです。
このHimalayan Textile の服のバラエティーを、来年には更に増やしていきたいと思います。この布の需要が増えていけばいくほど、仕事と現金収入をもたらし、ヒマラヤの村が活気付きます。更に、日本国内だけではなく、現地でそれに相応しい場所で相応しいお客様に売ることが出来ればとも考えています。そして、いずれはシルクの布と共に、ネパールでの伝統と手仕事によるモノづくり産業の振興に寄与出来ればと考えております。その受け皿となるのが、ORIENTAL GATE の使命です。
そのような夢に少しずつ近づいていけるように、これからも一歩一歩確実に歩んでいきたいと思います。